群馬大学医学部附属病院 検査部・群馬大学大学院医学系研究科 臨床検査医学

臨床検査医学

臨床検査医学とは

臨床検査医学とは、基礎医学で得た知見を応用し、臨床の場で患者さんの診断や治療のために用いられる「検査」についての総合的な学問分野です。医学の様々な分野に関係しており、各種疾患の発見、診断に加え、治療効果の判定や経過観察など、あらゆる臨床の場面で検査は用いられています。

私たちは、臨床検査を通して様々な疾患の原因を解明することや、疾患を診断するための新たな検査方法を開発することなど、幅広く研究活動を続けています。さらに、学内外の医学生、研修医などの若い医療従事者に対し、医療における臨床検査の役割やその実践について、積極的に教育を行っています。この研究や教育の活動が附属病院検査部での臨床現場で行かせるよう、日々取り組んでおります。

大学院の受け入れ

臨床検査医学の講座では、修士課程の生命医科学専攻、博士課程の医科学専攻の大学院生をそれぞれ受け入れており、学生のほか、社会人の大学院生も多く在籍しています。在籍している大学院生は、本院および他院の医師(専門医・専攻医・研修医)のほか、臨床検査技師、薬剤師、他学教員など、様々な職種・分野から集まり、各自の専門分野を生かした臨床検査医学の研究を行っています。また、海外からの留学生も積極的に受け入れています。

また、臨床検査医学が多くの分野に関わる領域であることより、学内の医学系研究科、保健学研究科、教育学部、理工学府、生体調節研究所のほか、学外の多くの医療機関や研究施設などと連携し、共同研究を活発に行っています。

行っている研究

1)新たな脂質異常症の病態解明及び治療戦略の創出

脂質異常症(高脂血症)は、虚血性心疾患や脳血管疾患の危険因子の一つであり、その原因として食生活などの生活習慣によるもの、遺伝的な背景によるものがありますが、未だ原因不明なものも多く存在します。

最近私たちは、血管内皮細胞アンカータンパクGPIHBP1に対する自己抗体が原因でリポタンパクリパーゼ活性が低下し、著名な高中性脂肪血症をきたすという全く新たな脂質異常症のメカニズムの解明に成功しました(N Engl J Med, 376: 1647-1658, 2017)。現在、この研究を発展させ、新たな脂質異常症の原因解明のために国内外の様々な医療機関から検体を集めて、解析を行っています。この研究は群馬大学重点支援プロジェクトに採択され、私たち臨床検査医学のほか、生化学、法医学、未来先端研究機構と共同研究を行い、様々な解析方法による脂質異常症の病態の解明と、標的分子に対する新たな治療戦略の創出をめざして研究を進めています。

2)脂質異常による動脈硬化症の新たなメカニズムの解明

動脈硬化の原因に、血中LDLコレステロールの上昇やHDLコレステロールの低下が重要であることが知られています。一方で、食後のカイロミクロンやVLDLコレステロールなどに含まれる中性脂肪の上昇と動脈硬化の関係は不明な点が多い現状です。近年、血中の中性脂肪の分解産物であるレムナントが動脈硬化に関与することが報告され、血中脂質代謝に重要なリパーゼの働きにも注目が集まっています。私たちは、血中リパーゼであるリポプロテインリパーゼ(LPL)や肝性リパーゼ(HTGL)のほか、LPLのアンカー蛋白であるGPIHBP1の測定方法の開発に携わってきました。現在、これらの測定を通した詳細な脂質代謝の解析結果と動脈硬化症の関連性を検証し、動脈硬化の新たなメカニズムの解明について研究を行っています。

3)食と健康科学に関する研究

群馬県には、多数の食品関連産業が拠点を置き、国内日本一の生産量を誇るこんにゃくなど特徴的食品が多くあります。近年は機能性食品などが注目を集めており、食を通した健康増進の必要性が高まっています。

このニーズに対応するために、群馬大学では、2017年度に食健康科学教育研究センターを設置しました。このセンターでは群馬県の自治体と産業界と連携し、食と健康に関する様々な視点からのニーズをもとに研究・開発を行い、研究成果を通して地域の健康増進、産業振興の支援を図るとともに、職業人材の育成を目的として活動しています。臨床検査医学からもこのセンターの構成員を多く輩出し、食品による健康への影響について、様々な検査を通した解析研究を行っています。2020年度には、県内食品会社であるグリーンリーフ社が開発したこんにゃく粉入り粥の摂取による血糖およびインスリンの上昇抑制作用を明らかとし(Ann Nutr Metab. 76: 259-276,2020)、群馬大学のプレスリリースでも紹介されました(詳細はこちら)。さらに、こんにゃく粉入り粥の摂取が血中LPLの上昇をもたらし、これにより血中の中性脂肪を低下させることも明らかとしました(Nutrients. 13(7):2191. 2021)(詳細はこちら)。これらの成果から、こんにゃく摂取が中性脂肪を低下させ、メタボリック症候群や心血管疾患の発症を抑制することで人々の健康増進に貢献することが期待されます。このほか、人間ドック対象者の尿中ヨウ素濃度の測定を通した県民のヨウ素摂取状況と健康障害の関連性の調査など、特徴的な研究活動を続けています。

4)感染症に関する研究

臨床検査医学では感染制御部と連携して、各微生物の血中抗体価とワクチン接種の間の関連性の解析を行い、医療職者のみならず、様々な職業を目指す学生に対する感染予防についての研究を行っています。また、分子生物学的解析法を用いることにより、院内感染の原因菌の疫学調査や病院環境における細菌の分布調査などの研究を行い、病院感染対策へのこれらの方法の応用に向けた取り組みを行っています。

感染拡大が懸念されている新型コロナウィルス感染症(COVID-19)に対しては、2020年3月より院内でPCR検査を開始し、その後、抗原検査を導入するなど、検査体制を順次整備してきました。また、以前の感染の状態を反映する抗体検査を用いた研究も大規模に行い、院内のみならず複数の医療機関を対象として、新たな抗体検査試薬を用いた感染状況についての疫学調査を実施しています。今後も新型コロナウィルスの感染拡大防止に向け、より有用な検査試薬の開発研究を進めてまいります。

5)代謝性疾患や動脈硬化の病態における甲状腺ホルモンの作用機構の解明

甲状腺ホルモンは全身のエネルギー代謝に重要なホルモンであり、糖代謝や脂質代謝にも重要な働きを果たしています。一方で、糖尿病、脂質異常などの代謝性疾患とそれにより引き起こされる動脈硬化の成り立ちに甲状腺ホルモンがどのように作用しているか、詳しいメカニズムはこれまで不明でした。私たちは、末梢組織での甲状腺ホルモンの代謝酵素である脱ヨード酵素の働きに注目し、培養細胞、動物モデルなどを用いて甲状腺ホルモンの作用機構について詳細な解析を行ってきました。これまでに、甲状腺ホルモンによる膵β細胞のインスリン分泌機構の解明(Life Sci, 115: 22-28, 2014)や、甲状腺ホルモンによる血管修復メカニズムの解明(Endocrinology, 156: 4312-4324, 2015)などの成果をあげており、現在も様々な疾患における甲状腺ホルモンの作用について検討を進めています。

6)スポーツ医学における新たなバイオマーカーの探索

群馬県は車中心の社会であり、これによる運動不足が生活習慣病をはじめとする健康被害に関わることが示唆されてきました。私たち臨床検査医学では、教育学部保健体育講座とともに2001年より地域貢献事業に加わり、「車社会における県民生活に及ぼす影響評価」として、県内の地域住民を対象に健康調査を行ってきました(J Phys Act Health, 6: 55-62, 2009)。さらに、2005年度からは文部科学省の現代的教育ニーズプログラム(現代GP)に採択され、地域住民の健康調査とともに、運動を通した健康づくりや運動指導を担う人材の育成についての活動を進めてきました。

さらに、県内のスポーツ競技団体に対する支援活動として、各種競技のアスリートを対象に、検査を通した健康管理・維持に関する助言を行うほか、コンディション調整のための新たなバイオマーカーの探索の研究活動を続けています。現在までに、骨格筋量の多いレスリング選手の効果的なエネルギー利用を評価するためのLPL、GPIHBP1 などの脂質代謝マーカー測定の有用性(Lipids Health Dis. 18: 84, 2019)や、長距離陸上選手における練習によるストレス評価のための概日リズム内での唾液コルチゾールの自動測定法の有用性(Sports Med Open 6: 38, 2020)等を明らかとしてきました。

7)新たな遺伝子解析方法の臨床応用

肥満や2型糖尿病などの疾患の原因には、食事や運動などの環境因子のほかに遺伝的な因子が関わることが知られています。これまで遺伝的な因子は体質として扱われてきましたが、近年の研究により、この体質が遺伝子の一塩基の違い(一塩基多型:SNP)に影響することが解明され、SNPの解析による個別化医療の実現に期待が高まっています。SNPの解析は、これまで操作が煩雑で多くの時間が必要であることが課題であり、臨床現場でより簡便かつ迅速な測定法が期待されていました。私たちは、理化学研究所と共同で新たな遺伝子解析方法を研究し、1滴の血液から30分ほどで迅速、簡便にSNPを測定する方法を開発しました(Nat Methods 4: 257-262, 2007)。この方法による生活習慣病の予防や様々な疾患の診断など、臨床応用に向けた取り組みを行っています。

沿革

昭和48年(1973年) 7月
田波洋先生初代専任中央検査部長・教授に就任
昭和53年(1978年) 4月
臨床検査医学専攻大学院生一回生入学
平成元年(1989年) 5月
小林功先生臨床検査医学教授及び附属病院中央検査部長に就任
平成2年(1990年) 4月
臨床検査医学講座を開設
平成9年(1997年) 4月
小林功先生医学部附属病院長に就任(併任)
中央検査部から検査部へ名称変更
平成13年(2001年) 5月
村上正巳先生臨床検査医学教授及び附属病院検査部長に就任
平成14年(2002年) 6月
検査部診療部門を設置
検査部外来診療を開始
平成15年(2003年) 4月
感染制御部を設置

開催学会

平成9年(1997年) 9月
第6回日本臨床病理学会関東・甲信越支部総会(総会長 小林功、砂防会館)
平成13年(2001年) 10月
第22回日本肥満学会(会長 小林 功、群馬県民会館)
平成16年(2004年) 9月
第16回日本臨床検査医学会関東甲信越支部総会(総会長 村上正巳、東京コンファレンスセンター)
平成18年(2006年) 4月
第16回日本臨床検査専門医会春季大会(大会長 村上正巳、ホテルメトロポリタン高崎)
平成19年(2007年) 11月
第9回国立大学附属病院感染対策協議会総会(総会長 村上正巳、ホテルメトロポリタン高崎)
平成23年(2011年) 6月
第19回 日本臨床化学会関東支部総会(総会長 村上正巳、学術総合センター)
平成25年(2013年) 10月
日本臨床検査自動化学会第45回大会(大会長 村上正巳、パシフィコ横浜)
平成29年(2017年) 11月
第29回世界病理臨床検査医学会連合会議 WASPaLM2017
第64回日本臨床検査医学会学術集会(合同開催 大会長 村上正巳、国立京都国際会館)